舞台は面接会場。面接官の質問に懸命に答える面接を受けにきた男(吉田)。最近はひねくれた質問も多い。しかし男性は懸命に答えていく。
照明 C・I
下手に面接官が座っている。
上手に面接を受けにきた男性が立っている。
吉田 「遂に来た。憧れの会社!絶対に受かりたい!(深呼吸)よしっ!」
ドアをノックする仕草。
面接官「どうぞ。」
吉田 「失礼致します!」
ドアを開けて一礼。椅子まで進み席に着く。
面接官、手元の資料を見る振り。
面接官「・・・吉田さんですねー。はいはい、なるほど。ご実家は長崎の方なんですねー。
またなんで東京に?」
吉田 「はい!『ご実家は長崎の方なんですねー。またなんで東京に?』の返答といたしま
しては、どうしても御社のような実績のある会社で自分の力を最大限に発揮してみ
たいと思いまして上京いたしました。」
吉田、満面のスマイル。
面接官「あ、そうなんですねー。この道を選んだきっかけとかってありますか?」
吉田 「はい!『この道を選んだきっかけとかってありますか?』の返答といたしましては、
やはりこの先の日本を担う若者として何でも見極める力というのが大切になってく
ると思うんです。」
面接官「ああ、なるほどね。例えば『この牛乳腐ってんのかな、(匂いを嗅ぐ)あー危ない
なーでもまだ半分も残ってる、お父さーん!ホットミルク飲まなーい?』ってかん
じのやつね。」
吉田 「はい!・・・ん?」
面接官「では次の質問です。あなたはパン屋さんに居ます。そこでパンを横取りされてしま
いました。取った中学生は何歳くらいでしたか?」
吉田 「え?中学生だから・・・十四歳くらい?」
面接官「(書類に書く振り)中二病っと。」
吉田 「えー!いま中学生ってそっちが。」
面接官「では次の質問にいきます。あなたの十年後のビジョンを教えてください。」
吉田 「はい!『あなたの十年後のビジョンを教え・・・」
面接官「ちょちょちょ、待ってください。」
吉田 「『ちょちょちょ、待ってください。』」
面接官「おい!」
吉田 「『おい!』」
面接官「それどうにかなりませんか?」
吉田 「『それどうにかなりませんか?』の返答といたしましては」
面接官「それ辞めてください!くどくて印象悪いですよ。」
吉田 「い、いんしょうが、わ、わるい、いいいいあああああ!!ごめんなさい!何でもし
ます!許してください!お願いします!今すぐジュースを買ってきます!パシって
ください!私をパシって!」
面接官「落ち着いてください、吉田さん!質問に答えていただければ結構ですから。」
吉田 「はい!!(満面のスマイル)」
面接官「もう一度訊きます。あなたの十年後のビジョンを教えてください。」
吉田 「はい!そうですねー。いまがハイだから、きっと十年後はメガビジョンとかー、ウル
トラビジョンとかー。あ!もしかしたらビッグバンビジョンかも!かっこいいなー。」
面接官「テレビの話じゃありません!」
吉田、面接官を無視して進める。
吉田 「こりゃあたぶん内蔵とかまで映っちゃうんでしょうね!んで『あーこのひとお昼にラー
メン食ったんだなー。』とか見えちゃうんだろうなー!いいなー!はやくそんな時代来
ないかなー!」
面接官「そんな機能いりませんよ!だいたいどうやって内蔵映るんですか!みんな人体模型じゃ
ん!駅前インタビューとかどうすんだよ!みんな同じじゃん!」
吉田 「ああそうか。」
面接官、溜め息をついて腕時計をみる。
面接官「時間がないので進めます。あなたにとって仕事とは何ですか?」
吉田 「えーっと」
面接官「最初はW。」
吉田 「え?!そういうルール?!えーっとえーっと・・・ワイルド!(ワイルドっぽく強そうに)」
面接官「O。」
吉田 「・・・オブ!」
面接官「R。」
吉田 「R・・・R・・・れ、れーれーれー、レインボー!!!」
面接官「・・・K!」
吉田 「かまぼこ!!!」
面接官「なんですか、ワイルドオブレインボーかまぼこって。」
吉田 「ワイルドオブレインボーかまぼこ・・・これさえあれば地球なんて滅ぼせるほどの破壊
力を持てる、ほどのめちゃくちゃ固い虹色のかまぼこ。」
面接官、突然立ち上がる。
面接官「・・・はっはっはっは。お前が腰に付けているそれ、渡してもらおうか。シュー、シュー
(ダースベーダーのように)。」
吉田も立ち上がる。
面接官、吉田に近づく。
吉田 「お前は・・・メーン・セツカーン!くそっ!しかたない!」
吉田、かまぼこを刀のようにかまえる。
面接官「はっはっは、私に勝てるとでも思っているのか。シュー、シュー」
面接官、ライトセーバーのようなものを構える。
面接官「ぶおん」
吉田 「ああ!これじゃ勝てない!出ろ!なんか出ろ!かまぼこ!・・・ぶおん」
面接官「まさかそんな!七色のかまぼこセーバーだと・・・?!」
吉田 「そんなピンクと白のへなちょこセーバーには負けないぞ!」
吉田、面接官と太刀回りして勝利する。
面接官、床に倒れ込む。
面接官「うわああああ、よ、よしだ・・・シュー、シュー・・・この、マスクを取ってくれ・・・。」
吉田、マスクを取る振り。そして驚きの顔。
吉田 「・・・と、父さあああああん!!!」
面接官、腕時計をみる。
面接官「はい、時間がないので進めます。」
面接官と吉田、椅子に戻る。
面接官「では最後になりましたが、ここからは自由に自己PRして、あなたを私に売り込んでく
ださい。」
吉田 「はい!」
吉田、立ち上がる。
吉田 「商品番号145、吉田新一のご紹介です(キメ顔)。二十四歳。旬の男。一家に一体あ
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らが負担いたします!」
面接官「いらねえよ!不採用だよ!」
吉田 「・・・あああああ・・・でも俺自信あるんですよ、ひよこのオスとメス見分けるの。」
面接官「でもこの職、十年でなくなるよ?」
吉田 「え?」
面接官「ビッグバンビジョンできるから。」
照明 C・O
ー完ー