舞台は鈴木宅。友人の佐藤が不思議な夢をみたことから、はじまる。
明転
鈴木と佐藤が舞台中央であぐらをかいている。
佐藤「なあ、俺さ、今日変な夢見たんだよ」
鈴木「え?どんな?」
佐藤「おまえんちの隣の人が襲われる夢」
鈴木「は?気味悪いこというなよ」
佐藤「おまえんちと間取り一緒だったんだもん。んでな、シンプルなんだけど、普通に部屋に男が
入ってきて、住人がやめろーって叫んで刺されるの。それをさ、俺は客観的に見てるんだよ」
鈴木「お前は大丈夫なの?」
佐藤「そこで目覚めちゃったからわかんねえんだよ」
鈴木「怖いこと言うなよな」
佐藤「まあお前んちじゃねえし。でも俺も怖いから念のため鍵しまってるか見てくるわ」
鈴木「おお、頼んだわ」
佐藤が一回捌けてすぐ帰ってくる。
佐藤「俺、夢の中で時計見たんだけどさ、それが夕方の五時過ぎだったんだよね」
鈴木が腕時計を見る。
鈴木「あと三十分くらいか。なんか怖いからしりとりでもしねえ?」
佐藤「お!気晴らしにいいな。じゃあお前からな」
鈴木「しりとり」
佐藤「りんご。あ、忘れてた。実家からりんごが送られてきたから、おまえにもと思って持ってきた
んだった。今が食べごろらしいから、すぐ食べようぜ」
鈴木「お前、よくこういう時に食欲あるな」
佐藤「だってあれは夢だからさ。なんか俺、大丈夫な気がしてきた!俺が言ってるから大丈夫だって!」
鈴木が腕時計を見る。
鈴木「あと二十分」
佐藤「お前は本当にビビりだな。とりあえず包丁借りるぞ」
佐藤が捌けていく。
鈴木「ったく、何なんだよ。最近近所で連続殺人犯ってのが大々的にニュースになってるんだから、怖
がって当然だろ。でもまああいつにそんな予知夢みたいな能力あるはずないよな」
SE 不審な物音
鈴木「???隣か?」
鈴木が舞台下手のほうへ寄って壁に耳をあてる仕草
鈴木「気のせいか。佐藤のやつ、余計な心配増やしやがって。だいたい俺んちと同じ間取りって…あれ?
普通、隣の部 屋ってそのまま反転した間取りじゃなかったか?ってことは俺んち?いやいやいや
下の人とか上の人とか隣の隣の人の部屋かも…あいつなんで俺んちの隣っていう確証があるんだ?
なんか段々怖くなってきた。まさかあいつが?いやいやいやそんなはずない。あいつも怖がって鍵を
確かめに行ったから…鍵?…なんか不安になってきた。そういえばあいつ遅いな…包丁借りるって
言ってたし…もしかしてあいつ…」
鈴木が恐る恐る佐藤が捌けた方向へ歩き出す。
佐藤がスタスタと歩きながら喋って入ってくる。
佐藤「指切っちゃったよー。慣れないことするもんじゃないな」
鈴木は佐藤に驚いてから胸をなでおろす仕草。
佐藤「ん?どうした?」
鈴木「いや、なんでもない」
佐藤「なんか変だぞ?」
鈴木「さっき隣で変な音したんだよ」
佐藤「じゃあ、隣のぞきにいくか」
鈴木「バカ、やめとけって。本当に犯人が隣の人襲ってたらどうすんだよ」
佐藤が突然大声で笑い出す。
佐藤「それはねえよ、だって俺だもん、犯人」
鈴木「…え?何言ってんの?」
佐藤「だから、俺だって。犯人は」
鈴木が恐る恐る後ずさり、走って捌ける。
暗転
佐藤が捌ける
明転
鈴木がドアを突き破るマイムで走り込んで倒れ込む
鈴木「ドア開いてんじゃねえか!」
鈴木が部屋を見回す
鈴木「あれ…空き家?」
佐藤が入ってくる
佐藤「じゃじゃーん!騙された?俺が犯人な訳ねえじゃん。ちょっと驚かそうと思ったらこれだからなー」
鈴木「なんだよ、ちょっと本気にしたじゃん。脅かすなよ」
佐藤「怖かった?」
鈴木「なんだよ、楽しそうに」
佐藤「俺さ、人が怖がってるのとか、恐怖におびえてる顔とか声とかそういうの好きなんだよ」
鈴木「悪趣味だなー」
佐藤「だからな、ここで何度も何度も」
鈴木「何度も?」
佐藤「人間の恐怖を感じたんだよ」
鈴木「は?」
佐藤「…なあ、俺がどうしてお前の部屋じゃないって確証をもってたのかわかるか?」
鈴木「…いいや」
佐藤「家具が無かったからだよ。お前んちのアパートの部屋は隣の部屋と反転してるタイプじゃないって
知ってたのは何度もここへ来たことがあるから」
鈴木「…じゃあ夢っていうのは」
佐藤「夢は叶えるもんだろう?」
佐藤がナイフを取り出し鈴木に襲いかかる
鈴木「や、やめろおおお」
暗転
鈴木が捌けて、佐藤が舞台中央に横になる
明転
佐藤が夢から覚めて起き上がり、段々笑い出す
ポケットから携帯を出して電話をかける
佐藤「あーもしもし、鈴木?今日、会える?いや、見たいもん
あるんだよ」
佐藤が不敵に笑う
暗転
END