舞台は無人島。海賊のジャックとセールスマンの森田との掛け合い。
暗転のまま
ナレーション(壮大な冒険ファンタジーのようなBGMも一緒に)
「前回のあらすじ。海賊になるのが夢だった少年ジャックは、ようやく仲間を集め、大航海へと繰り出した。しかし、シェフに選んだ男がフグの毒を抜かないまま調理してしまったため船員のほとんどが息絶えた。だが、幸運にも夕食を抜きにされていた船長のジャックのみが生き残った。1人での航海を決意したジャックだったが、海の地図を読むことが出来ず、ひとまず発見した島に船を進めようと舵を取るが、右と左を間違え、座礁。船を捨て、無人島へと救命ボートで渡ることにしたのであった」
明転
舞台中央にジャック(以下、J)。海から上がって来た様子でもがいている。
J 「やっとついた…あーあー海藻が!海藻が絡まって…美味い!」
舞台をうろうろ歩き回って、やがて座り込む。
J 「弱ったなあ、セブンもローソンもないんじゃ、生きていけないよお」
舞台下手からセールスマン(森田)が鞄を持ってスーツでにこやかに登場。
森田「どうもこんにちは!」
Jが森田を見て驚きで固まる。
森田「あー…ハロー?…ニイハオ!…?…ボンジュール???」
固まったままのJ。
森田「あのー、僕、人間です」
J 「うおー、驚いた!無人島だから、てっきり謎の生命体かなにかが様々な言語で
巧みに警戒心を解いて、襲いかかって食べられるんじゃないかと思った、そう
か、人間だったんだ。よかった」
森田「注意深いというか、単純というか、不思議な方ですね」
J 「俺の名前はジャック!この海を支配する海賊!あまりに狂暴なもんで、他の船
員に毒を盛られそうになったが、俺の長年の勘で回避。そっからは1人で航海
してたんだが、あまりに俺が強すぎて、他の海賊も俺に近寄らなくなっちまっ
てさ、暇になったんで、無人島にでも遊びに来たってわけよ」
森田「それはそれは頼もしい!こんなに素晴らしい方にお目にかかれて光栄です」
J 「苦しゅうない。近う寄れ」
森田、ちょっとめんどくさそうにJの横に座る。
森田「あの、ジャックさんはここをどうやって脱出なさるおつもりなんですか?」
J 「そうだなあ、まあ俺様には高い懸賞金がかけられているだろうから嫌でも向こ
うから俺を捜してくれるだろうよ!」
森田「え?でもさっき他の海賊は俺に近寄らなくなったって言いましたよね」
J 「は?言ってねーよ!大人気だよ!俺のことみんな探してるよ!」
森田「…。ジャックさん自身でここから脱出したいとは思いませんか」
J 「え?俺様が?まあ、俺が船長ってんなら考えてやらんくもない」
森田「でしたら、よいプランがございます!」
J 「プラン?」
森田「例えば、イカダプランですと、かなりリーズナブルに脱出することが可能で
す」
J 「イカダ?俺様はちゃんとした船じゃねえと乗る気がしねえな」
森田「でしたら、少々値が張りますが、フェリープランや潜水艦プラン、帰国までを
楽しみたいという方にはマリンクルーズプランなどもご用意しております」
J 「ちょっと待て、お前一体何者だ」
森田「わたくし、こちらの無人島で脱出プランを提供し、お客様に快適に帰国してい
ただくことを目的としております。有限会社エスケープの森田と申します」
森田が名刺をJに渡す。
J 「あんたこんなとこでどうやって生活してるんだ」
森田「それは企業秘密となっております」
J 「どうも怪しいな。こんな胡散臭い話、信じる方がおかしいぜ」
森田「安心してください。海賊のお客様は皆さんそうおっしゃいますが、最終的には
脱出なさる途中で海賊を襲って、船を奪っているようなのでそのままツアーの
ほうは途中で中断されて、海賊として旅立たれるケースがほとんどです」
Jが溜め息をつき、立ち上がってうろうろする。
J 「俺が海賊を続ければの話だけどな…」
森田「え?」
J 「そのプランってやつは日本には帰れるのか?」
森田「はい、もちろん日本に帰るルートもございます」
J 「もう潮時かもな、海賊ってのも。…俺、日本帰るわ」
森田が鞄から書類を出す。
森田「そうですか…ではこちらの書類にサインと…」
森田の言葉を遮って、Jがうろうろしながら語りだす。
J 「俺はな、海の近くで育ったんだ。ある日、海賊と名乗るおじさんに、麦わら帽
子をもらった。その麦わら帽子はもうどこにいったかわかんないけど、でも、
俺は海賊になろうと決心した!だけど実際は全然ダメ。俺、カナヅチだし!
変な実とか全然食べてないのに元から泳げないし!海の地図だって読めないし
おまけに右も左も曖昧で、そんなんだから部下には舐められるし、特にあのス
ティーブの野郎は俺にだけ全然メシを作らねえ!それに乗じて他の部下も俺に
タメ口をきくようになり、俺の威厳も無くなり、いい笑い者だったよ。俺なん
て海賊向いてないんだ」
森田「そもそもどこで船員を集めたんですか」
J 「ゲイバー」
森田「それみんなオネエなの?!」
J 「だいたいみんなオネエ言葉だった」
森田「まず人選がおかしいでしょ」
J 「だからもう辞めたいんだよ、海賊は。普通にマックのバイトとかでいいんだよ
もう。なんとか海賊に会わない航路で帰りたいんだが」
森田「ここら辺は海賊が多いですから、難しいですけどなんとかやってみましょう」
J 「ほんとですか!ありがとう」
森田「あなた本当はいい人なんでしょう。海賊なんて向いてないですよ。潮臭いマッ
クの店員もどうかと思いますけど」
微笑み合う二人。
森田「じゃあこれにサインしてください」
Jが頷いて、サインして拇印を押す。
森田「ありがとうございます。これでジャックさんはすぐに脱出できます」
J 「ほんとに助かりました。ところで森田さんはここにずっといるつもりなんです
か?」
森田「はい。私の仕事はこの島で一人でも多くの人を快適に脱出させることですか
ら」
J 「そうですか。寂しくないんですか」
森田「全然。実はね、沢山ペットを飼ってるんですよ」
J 「ペット?」
森田が空を指差す。
森田「ほら、あそこに飛んでる鳥がいるでしょう。あれはドル子っていってかわいい
やつなんですよ」
J 「え?ドル子?」
森田「コンドルです」
J 「ものすごい大きな魚くわえてるじゃないですか」
森田「他にもヘビとかチンパンジーとかラスカルとか」
J 「アライグマも?!この森にはそんなに沢山動物がいるんですね」
森田「そうなんですよ、意外と快適なんですよねー。向こうの門にこないだミスドで
きたし」
J 「え?ミスド?!」
森田「あ、いけない、うっかり八兵衛」
J 「うっかり八兵衛じゃないですよ!え、どういうことですか、ここにはあなた以
外にも人間が住んでるんですか」
森田「まいったなあ。ばれちゃあしょうがない。実はね、ここは遭難者が開拓した新
しい村のようなものなんです」
J 「じゃあ俺も入れてくださいよ」
森田「いや、それはできません」
J 「どうして」
森田「どうしてってまあ、いろいろあるんですよ」
J 「え?なんで、ねえなんで!ミスドでバイトでもいいですから!どうしてダメな
んですか!」
森田「もういいじゃないですか!あなたもうここにサインしたんだから、ここからは
出ることを約束したんですよ!」
J 「くそ!そんなもの!」
Jが森田の書類を奪おうとする。
すると下手から男性が通りすがるように登場。
固まるJと森田。
J 「スティーブ!」
森田「村長!」
J 「えっ?!」
暗転
END