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雪山.png

舞台は雪山。テツと新一という男二人がちゃぶ台を囲んで向かい合っている。実はこの二人、遭難している。そこに様々な人物が現れる。

 

 明点

 

   舞台中央にちゃぶ台

   テツと新一が一万円札を引っ張り合っている。

   二人の後ろには大きなリュックがそれぞれ置いてある

 

テツ「俺が先に見つけたんだぞ!」

新一「俺だよ!」

テツ「かーえーせー!」

新一「あっ!」

   お札が半分に破れてしまう。

テツ「あー!もう!しんちゃんがそんなに引っ張るから」

新一「てっちゃんだろー!どうすんだよこれ」

   テツが立ち上がってお札を眺める。

テツ「まてよ、これもしかして・・・俺、天才かも!」

新一「なんだよ」

テツ「コレをな、銀行にもって行くんだよ!」

新一「で?」

テツ「そしたらよ、一万が、二万になるだろ?」

新一「ならねえよ」

テツ「え?え?え?なんで?」

新一「お前ほんとバカだな、そんなことが出来たら俺はすぐさま一万円  

   札をシュレッダーにかけまくって銀行もっていくよ」

テツ「あ!そっか!お前天才だな」

新一「だから、なんねえって」

   諦めて座り込むテツ。

新一「なあ、何でお前ちゃぶ台もってきたの?」

テツ「え?だって、いるだろ!常識的に!」

新一「お前の常識は何を基準にできてんだよ」

   少し間を置いて、二人で同時に溜め息をつく。

新一「俺たちもう死んじゃうのかなー」

テツ「雪山だもんなーここ」

新一「どうすんだよ、これから」

テツ「とりあえず死ぬ前に、しんちゃんに言わなきゃいけないことがある」

新一「なんだよ」

テツ「実はしんちゃんにこないだ借りたCD、失くしちゃったんだ」

新一「お前、あれ限定版で二度と手に入んないんだぞ!」

テツ「ごめんってー。だってしんちゃん全然俺のCDプレーヤー返し

   てくれないから一回も聴けなかったんだぜ」

新一「あ、ごめん。失くした」

テツ「おーい!!!俺より重罪だろ!」

新一「なんでだよ!CDプレーヤーは山ほどあるけど、俺が貸したCDは

   もう手に入んないんだぞ!そっちの方が罪は重いだろ!」

テツ「あれ結構高かったんだぞー、あー、ショックだー」

新一「ま、どうせ死ぬんだし、もういっか」

テツ「よくねえよ・・・聴きたかったなー、あのCD」

新一「俺が歌ってやろうか」

テツ「マジで?」

   喉の調子を整える新一

新一「♪エリンギ〜」

   歌いだしで上手からスーツの男(森田)が鞄を持って出てくる

   テツと新一が森田をみて固まる

   森田が二人に気付いて立ち止まり、笑顔をみせる

森田「どうも、こんにちは」

テツ「こんにちは・・・あなた一体」

森田「ここらへんで遭難者を対象に素敵な商品をご紹介しております。

   森田と申します」

   森田がテツと新一のあいだに座る

新一「遭難者対象?」

森田「そうです。こういった状況でも快適に遭難ライフを送れるよう  

   素敵な商品を多数取り揃えております」

テツ「例えば?」

   森田が鞄からカタログを取り出す

森田「こちらの羽毛布団などいかがでしょうか」

テツ「おー、これで寒さもしのげるってわけですね」

森田「そうなんです!いまならこちらを二点お申し込みいただければ

   この低反発まくらも特別に付いてくるんです!」

テツ「マジですか!これは買うしか無いな〜、しんちゃんの分も買って

   枕も付いてくるなんて俺たちにはもってこいじゃん!」

新一「おい」

森田「更にですね、会員になってもらえればお友達を紹介するだけでお

   客様への利益にもなって、こちらのカタログの商品を安くで手に

   入れることも可能なんですよ!」

テツ「お得だな〜!」

新一「おい!」

テツ「しんちゃん!買っちゃおうぜ!」

新一「おいって!」

テツ「どうしたんだよ」

新一「マルチだろ、完全に」

テツ「マルチ?」

新一「結局そんなの儲からないに決まってんだから」

森田「そんなことありませんよ、月に百万の利益をあげている方もいら

   っしゃいます」

テツ「百万?!」

新一「そんなの上の方の人間に決まってる、何人紹介すりゃあそんなに

   儲けられるんだよ。嘘くさくて信じられないね」

森田「自分の頑張り次第と言えばそれまでですが、会員を増やすだけで

   あなたの利益になるんですよ、楽に稼げるというのも利点です」

新一「いいか、こういう誘いをしてくるやつがいたら俺はまず友達辞め

   るね。お前は俺と友達辞めてでもこれで金稼ぎたいのか?」

テツ「えっ!そういわれたらしんちゃんとは友達でいたいよ」

   森田がうつむいて泣き出す

テツ「あ、ごめんなさい」

森田「いえ、違うんです」

テツ「どうしました?」

森田「僕・・・この仕事始めてから友達がいなくなっちゃって」

新一「ほら」

テツ「大丈夫ですよ、まあこれでも食べて」

   テツがリュックから白くて四角いものを取り出す

森田「なんですか、これ」

テツ「冷や奴」

新一「お前もうそれただの石けんだぞ!」

森田「誰かにプレゼントをもらうなんて、何年ぶりだろう」

   豆腐を手にして、ふたたび泣き出す森田

   森田の背中をさするテツ

テツ「よかったら友達になりましょう」

森田「本当ですか!」

新一「おいおい」

   森田が契約書を取り出す

森田「じゃあ、ここに印鑑を!」

テツ「え、印鑑?持ってたっけなー」

   リュックをあさるテツ

新一「おい!」

テツ「あ!あったあった。えーっと」

   判を押そうと腕を高く上げるテツ

   そこで下手からタクシー運転手の格好をした男(中尾)が現れて

   テツのあげた腕を掴み止めに入る

中尾「騙されんな!」

テツ「え?あなた・・・一体」

中尾「俺はここいらじゃ有名なタクシー野郎さ。それよりお前こいつの

   罠にまんまと引っかかりやがって。あぶねえなー、こいつはいつ

   もこの手口で遭難者に付け入ってんだ」

森田「くそ〜あともうちょっとだったのに」

テツ「え!そうなんですか!」

新一「俺はだいぶ前から気付いてたけどな」

中尾「お前ももうこんな商売、足洗った方がいいぜ」

森田「大きなお世話だよ」

テツ「だけど、さっきのあの涙はどうも本物っぽいですけど」

森田「え?」

テツ「本当は寂しいんでしょ!友達もいなくてこんな雪山でずっと遭難

   者探して、騙して。お金なんてあっても楽しくないでしょ!」

森田「・・・」

中尾「森田。また昔みたいに楽しまないか」

   中尾が森田の近くへいって肩を優しく叩く

   泣き出す森田

森田「僕・・・もう辞めます。こんな仕事!また昔みたいに沢山の友達

   を作って、あなた方のように一緒に登山を楽しみたいです!」

新一「遭難は勘弁だけどな」

中尾「そうか?その遭難者がいなくなったら俺の商売あがったりだけど

   な」

   一同が笑う

テツ「じゃあこの勢いでみんなでタクシーで帰りませんか」

新一「そうだな。で、ここから下までいくらかかんの?」

中尾「二万ありゃあ足りるぜ」

   新一とテツが顔を見合わせニヤリと笑う

   二人ともちゃぶ台に破れた一万円札を出す

新一「これで二万で」

   中尾が拾い上げ、ちょっと困惑の顔

テツ「さあさあ!そうと決まったら行きますよ!」

新一「こんな寒いとことはおさらばだ」

森田「さ、中尾さん行きましょう」

   三人が下手に歩いて捌ける

   中尾が置いて行かれたのに気付く

中尾「しょうがねえなあ!ひとっ走りするか!」

   中尾も下手に走って捌ける

 

 暗転

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