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FLAT-クレーマー_1.png

   舞台中央寄り下手と上手に黒い箱
   観客側から見て下手にはテツ、上手には新一が座っている

 

   明転


新一「おめでとー!!!」

   新一がテツに拍手しながら微笑む
   照れくさそうなテツ


テツ「いや、大げさだよ。そんな大したことないって」
新一「馬鹿野郎!店長になったんだぞ!すげえじゃねえか!」
テツ「いや、あれはまあ成り行きで」
新一「どんな成り行きだよ」
テツ「店長が辞めるって言い出して、次の店長やりたいひとーって訊かれたから、手挙げたんだよ」
新一「ほんと、びっくりだな」
テツ「俺しか手挙げなくて、俺になったの」
新一「すげえよな、お前。でもほら、そういうのバタフライエフェクトってやつじゃね?」
テツ「バタフライ・・・何?」
新一「バタフライエフェクト。つまり、蝶々の羽ばたきが影響して、遠くの地でトルネードが起こったりするって話」
テツ「いや、起きてないし蝶々なんていなかったよ」
新一「例えだよ。要はな、お前が手を挙げたという行動が、きっと今後大きく運命を変えることになるだろうってことよ」
テツ「まあ確かに、あそこで手挙げなかったら店長にはなれなかったな」
新一「人生ってそういう選択肢の繰り返しだろう」


   新一が薄眼で遠くを見つめる
   ちょっと引くテツ


テツ「でもさ、店長になったおかげで大変なことも増えちゃって」
新一「大変なこと?」
テツ「うん、まあクレーマーとかの対応を俺がしないといけなくなっちゃって」
新一「そんな大変なのか?」
テツ「こないだなんてさ、うちのラテアートに対して、これじゃあカツオじゃねえか!ってキレててさぁ・・・」
新一「お前んとこのラテアート、サンマだよな?」
テツ「サンマヤクカフェだからね」
新一「けどそんなこと言われても。ちょっと太っちゃっただけだろ?」
テツ「俺が作ったんだけどさ、ちょーっと太りすぎちゃいましたねーって言ったらまた怒っちゃって」
新一「冗談通じねえなぁ」
テツ「んで、そっからちょくちょくクレーム言ってくるんだよね、そのおじさん」
新一「じゃあ、クレーム対応の練習でもするか?」
テツ「え!いいの?」

   新一が立ち上がり、ポケットに手を突っ込んでいかにも態度の悪そうな客を演じる


新一「おい、あんたの店どうなってんだよ」

   テツも立ち上げり、店員を演じる


テツ「どうかなさいましたか?」
新一「サンマ焼いてねえのかよ」
テツ「うちはサンマヤクカフェという店名なだけで、サンマ感はラテアートやサンマの形をしたクッキーとか」
新一「塩焼きか蒲焼きはねえのかよ!」
テツ「申し訳ございません。当店でのお取り扱いはございませんので・・・」
新一「おい!出せよ!サンマで作ったクロワッサンマとか!」
テツ「サンマを練りこむのでしょうか」
新一「もっちりサンマとか!」
テツ「パンで挟めばよろしいでしょうか」
新一「サンマイッチ!」
テツ「サンマイッチ!?」
新一「ところでお前の店のクレーマーはこんな感じで合ってんのか?」
テツ「まったく」
新一「オッケー、早く言え」(二人とも座る)


   SE携帯の着信音
   テツがポケットから携帯をとるマイム


テツ「はい、どうした?・・・え?また来てるの?」
   (テツが電話を手で押さえながら新一に向かって)
テツ「(また来ちゃったみたい。クレームおじさん)」
新一「マジかよ!そいつ対応できんのか?」
テツ「もしもし?今日は何て言ってるの?・・・え?店長のせいで人生狂っちまった?それはもう店のクレームじゃないな」
新一「こりゃ厄介だぞ」
テツ「とにかく一回その人に代わってくれる?・・・あ、こんにちは。私が店長ですが・・・」


   テツがうるさそうに耳から電話を遠ざける


テツ「(なんか、俺はクレーマーだが本当はクレーマーなんてやりたくないって言ってる)」
新一「え?」
テツ「すみません、ちょっと意味が分からないんですけど」


   テツがまたうるさそうに耳から電話を遠ざける


テツ「(俺はあんたの仲間に騙された、俺はもっと違う役を与えられてもいいはずだって言ってる。このおじさん、何言って・・・)」


   新一が立ち上がり、テツから電話を奪い取って話しだす


新一「もしもし、あなた、クレーマー②の方ですよね?困るなあ、勝手なことされちゃあ。確かに急な配役で戸惑うこともあっただろうけど最終的には納得して、頑張りますって言ってたじゃないですか。・・・なに?主役になりたい?もう本番中なんですよ、とにかく今あなたはクレーマー②なんです。どうしても嫌って言うなら降板してください!」


   新一が電話を切って、テツに返そうと差し出す


テツ「新ちゃん、いまのどういうこと?」
新一「え?・・・何が?」
テツ「何がじゃないよ!あのおじさん何者なの?主役って何の話?」


   少し悩み、仕方ないなといった表情で携帯をポケットに入れて手をパンと叩く


新一「はい、カット!」


   首がうなだれて動かなくなるテツ


新一「この世は舞台。人はみな役者だという名言があるが、あれは事実だ。この世は演者と脚本家に分かれている。テッちゃんの人生を書
いてるのは俺だ」
テツ「・・・」
新一「テッちゃん、この部分はテッちゃんの脚本には書いてないんだ。アドリブしてごめん。だけど俺の未熟なキャスティングによりクレーマー②が役を降りると言い出した。その部分は謝るよ。だけど最近のテッちゃんは自由すぎるんだ!あんなところで手を挙げるなんて俺の書いた脚本にはなかった。だから急いでキャスティングしたんだよ、人生が面白くなるかと思って。テッちゃんの些細な行動で俺は毎回大幅に脚本を修正しているんだ。でもたぶんあいつはもう降板するだろう。テッちゃんの人生にはもう関わらない。えーっと・・・」


   新一がシャツの中の腰に挟んでいた黒いA4ノートを取り出す
   箱に広げて胸ポケットからペンを出して、文章を消したり書いたりするマイム


新一「今日クレーマーが電話してきたことは脚本から消そう。いやもうクレーマー自体消そう。ついでにクレーマー対応の練習も。いや、これは別におかしくないか。こう書いておこう・・・サンマイッチを考案した新一を天才だと褒め称える。っと」


   新一はノートを後ろに隠して箱に座る


新一「はい、五秒前!四、三、二・・・」


   テツが首をあげて新一を見る


新一「テッちゃん、もう大丈夫だ」
テツ「何が大丈夫なんだよ!すげえよ!新ちゃん天才だよ!サンマイッチかぁ~すぐ新商品に出来ないか提案してみるよ!携帯にメモっとくな!・・・あれ?携帯、携帯・・・」
新一「ああ、ごめん」


   新一がポケットからテツの携帯を出し、渡すテツ


テツ「あれ?なんで新ちゃんが持ってんの?」
新一「ん?あーいや、ほら、マジックだよ」
テツ「新ちゃんすげー!」


   テツ携帯をみるマイム

テツ「あ、そういえば今日荷物届くんだった」
新一「え?!そんなの俺書いてないけど!」
テツ「え?何を書くの?」
新一「あ、いや、何買ったんだよ」
テツ「新しいエプロンだよ。胸に店長!って書いてんの」
新一「また勝手なことして・・・」


   SE玄関のピンポン


テツ「はーい」


   テツが立ち上がり、下手の端でドアを開けるマイム


テツ「あ、どうも。あ、ちょっと印鑑とってきます。え?もう一人ここに居るだろ?ええ、居ますけど・・・」


   テツが新一のもとへ戻ってくる


テツ「新ちゃん、なんか配達の人が新ちゃんに会いたいって言ってるんだけど知り合い?」
新一「え?知らないよ、何だよ気味悪いな」


   新一が下手に行きドアを開けるマイムそして驚いた顔をする


新一「お前、勝手に一人二役すんなよ!」

 


暗転

 


END
 

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